特急はしだて3号で宮津へ
京都府の北、若狭湾に面した「海の京都」を旅する。
京都駅で山陰本線から丹後鉄道に乗り入れる特急はしだて3号に乗り換え、宮津までは約2時間。市街地を抜け保津峡、亀岡を過ぎ、車窓には実りを控えて緑から黄金色に変わりゆく田が折り紙を並べたように美しい。
宮津駅は厚い雲の下、このあと雨になる予報も出ている。
ここから先は予約しておいたレンタカーでの行動となる。
京都駅/特急はしだて3号
宮津駅/跨線橋から停車中の丹後鉄道車両
宮津駅/丹後鉄道の駅ごとにある猫のスタンプ
伊根湾めぐり遊覧船
とにかく雨が降り出す前に着きたいと思い、どこにも立ち寄ることなく一路伊根へ。
宮津湾沿いの国道は、右側はすぐ海、左側は道ギリギリまで急峻な崖がせり出したようなところもあり、ちょっと車を停めて写真を...という余裕がなかった。
舟屋群の一番手前あたりに位置する伊根湾めぐり遊覧船乗り場。まずはこの遊覧船に乗って海から舟屋を眺めることにした。
乗客は数人、今にも降り出しそうなくらい空の下、伊根湾の海面は深い緑色をしている。それほど近くまでは寄れないが、船のデッキから一望する舟屋群。写真でしか見たことのなかった光景が目の前に広がっていて不思議な気分。
伊根湾めぐり遊覧船
伊根の舟屋群 散策
遊覧船を降りて再び車に乗り細い道を進む。このあたりは道路を挟んで海側に舟屋、山側に母屋を持つ集落だと聞く。メディアでもよく見かける向井酒造さんの前を通り伊根浦公園へ。
駐車場に車を停めて、今度は歩いて先へ進む。丁字路を右に折れると道は緩やかな上り坂になり登りきったあたりでカーブしながら降りてゆく。右手海側は護岸工事が進んでいる。
奥伊根温泉の旅館が営む「雅」さんは舟屋をリノベーションした一棟貸しの宿だが、一階は和カフェになっている。海に張り出した護岸にも椅子が置かれていて、そこでみたらし団子をいただきながらひと休み。今日の宿泊客らしき女性たちが訪れ、その応対に立った店主の代わりに店番にいらした綺麗なグレーヘアをした女性が、夏の夕暮れの舟屋群の美しさを語ってくれた。厚い雲に覆われた伊根湾を前にそんなお話を伺っていると、夕日に煌めいている海をぜひ見てみたいものだと思った。
伊根浦公園
護岸工事をしている港
雅 海を眺めながらみたらし団子をいただく
雅 海上タクシーが目の前を通る
遊覧船から眺めた岬の先の赤い灯台を間近で見てみたいと思い、伊根浦公園から亀山まで車を走らせる。道はさらに狭く家々の間を縫うように続き、慎重にハンドルを握りながらゆっくりと岬の突端を目指す。
一番奥まったところにある宿の方にお願いして少しだけ車を停めさせていただき、灯台の写真を撮る。
伊根の穏やかな内海と外海のちょうど境目に当たる場所になるだろうか。伊根湾のどこにいてもこの鮮やかな赤が目に留まった。
灯台の立つ傍らには洗濯物のようにイカが干されている。共同の干し場になっているらしい。
伊根湾の端にある赤い灯台
細い道を戻り、途中から山側に登っていくと、道の駅「舟屋の里伊根」がある。見晴らしの良い展望台やレストランがあるが、着いた途端についに雨が降り出した。
随分前のNHKの朝の連続ドラマ「ええにょぼ」の舞台となった記念のプレートがあり、目の前にぐるりとひと渡り伊根湾が見下ろせる。駐車場からさらに上に続く遊歩道もあって大きな魚のオブジェがある展望台になっている。登ってみたい気もしたが雨が強くなってきて視界も足元も悪くなり断念。
道の駅「舟屋の里伊根」からの眺め
天橋立 智恩寺
明るいうちに回れそうだったので、宮津方面に戻り天橋立へ。
もう片付けを始めていた智恩寺の方にお願いして御朱印をいただき、ひとまわり拝観して天橋立の小天橋、大天橋と松林を少しだけ歩いてみる。
もう雨は上がっていたが、暗くなり始めたので急いで駐車場に戻り、天橋立駅に立ち寄って丹後鉄道の記念スタンプをもらう。
また雨が降り出した。本日の宿泊先は与謝野町の橋立ベイホテル。チェックインしてホテル内で夕食を済ませ、海の京都の旅1日目が終了。
智恩寺
天橋立小天橋。船の通過時には回転する
天橋立の松林。この先2キロほど続く
天橋立駅のスタンプ
橋立ベイホテル
客室の窓からは天橋立が左手遠くに見える。雨は上がったようだが厚い雲が低く垂れ込めていて、工場の煙突の煙が白くたなびいている。
ブッフェの朝食を済ませてチェックアウトして表に出ると、駐車場に小さなハーブガーデンがあり、花を咲かせたローズマリーがうねうねと奔放に茂っていた。
客室の窓から。早朝の景色
橋立ベイホテル全景
橋立ベイホテル ハーブガーデン
傘松公園から成相寺へ
籠神社駐車場に車を止め、神社のお参りは後にさせていただくことにして、ケーブルカーで傘松公園に登る。
小雨の中、登山バスで成相寺へむかう。
宮津に寄港中の客船で一人旅をしているという年配の男性と私の二人。
話し好きな運転手さんも交えて三人でいろいろ話をしながらの道中。
雲が多く霧も出て来たが、途中海が見下ろせた。
成相寺で下車し、長い長い階段を登って本堂へお参り。
御朱印を書いてくださった方からご詠歌があると伺い、朱印帳の見開きにそれも書いていただく。
ケーブルカーで府中から傘松公園へ。並行してリフトもある
細く急な道をゆく登山バス。成相寺山門に差し掛かる
成相寺
再び登山バスに乗って傘松公園まで降りる。雨が上がり遠くの空がわずかに明るくなってきた。
股のぞきに挑戦!曇り空に龍が登っていく?!
公園のキャラクター「かさぼう」
鳥居の向こうに冠島と沓島が見える遥拝所
元伊勢 籠神社と奥宮 真名井神社
ケーブルカーで傘松公園を降り、改めて籠神社へお参り。
伊勢神宮と同様の神明造の御本殿を持つ格式の高い丹後一の宮。一の鳥居から一直線に伸びる参道の奥、大木に囲まれた拝殿前に立つと身が引き締まる思い。
奥宮の眞名井神社はいったん籠神社を出て住宅の並ぶ通りを行きさらに竹林の間の細い道を登ってたどり着く。長い階段を登りきった先の本殿の後ろには大きな磐座が天照大御神を祀る。パワースポットで有名なだけあって、鈍感な私でさえ感じるほどの何か厳かな空気が漂っているようだった。
籠神社 一の鳥居
籠神社 この奥に拝殿と本殿
奥宮・真名井神社へは籠神社を出て少し歩く
真名井神社は森に抱かれた聖域。本殿は撮影不可
レンタカーを返すにはまだ少し早い時間だった。
晴れていればもう一度伊根湾を眺めに行きたかったところだが、相変わらずの厚い雲、あきらめて帰り道を選び、途中天橋立を眺めながら食事ができるという触れ込みの店でなぜか追い立てられるように慌ただしく昼食をとり、宮津駅まで戻ってレンタカーを返却した。
宮津駅は広い待合スペースもあり電車の時間までゆっくり時間を潰せるが、平日は喫茶コーナーがお休みで自動販売機しかない。地元の方に教えていただいた駅前の静かできれいな喫茶店でようやくひと心地、美味しいコーヒーをいただく。
雪舟庵 次のお客さんが控えて追い立てられるような食事...
宮津駅から「あかまつ」号に乗って
昨日のうちに乗車整理券を買っておいた丹後あかまつ号。少し早めに改札を済ませてホームに出ると、反対側のホームに濃紺のボディーの特急「丹後の海」が停車していた。列車デザインといえばこの方...水戸岡鋭治氏によるリニューアル車両は一度は乗車してみたいと思っていたが、京都宮津間を私のスケジュールにちょうど良いダイヤがなくて今回は断念したのだった。ここで会えるとは嬉しい!思わずカメラを向けた。
私が西舞鶴まで乗車する「あかまつ」も水戸岡氏のデザイン。ほどなくえんじ色の車両が入線し、アテンダントさんが乗車整理券を確認してくれる。内装は実にキャッチーな雰囲気だが、数人しか乗客がいないので席も選びたい放題。私は海側の窓に面したカウンター席に。アテンダントさんがおしぼりを運んできてくれる。
特急「丹後の海」
丹後あかまつ号
丹後あかまつ号 車内
丹後あかまつ号 車内
往路の宮福線でなく時間のかかる宮舞線で西舞鶴を経由しての復路選んだのは、この列車に乗車したかったのと、由良川橋梁を渡ってみたかったから。
一般車両との2両連結の列車が宮津市街を抜けて若狭湾沿いを走る頃になって、ようやく晴れ間が出て来た。この旅で初めて見る青い空!
カメラを準備してどきどきわくわくしながら差し掛かった由良川橋梁は、前面のガラスにに張り付いて独占状態の東洋人の若い女性旅行者と、せっかくの絶景の前に置かれた職員さんの大きなカバンのおかげで、残念ながら思ったような写真を撮ることはできずじまいだった。
やがてあかまつ号はゆったりと流れる由良川沿いを走り西舞鶴駅へ。ここからはJRのリレー号に乗り、さらに綾部駅で特急に乗り換えて京都へ戻る。
車両に下校の高校生や買い物帰りらしい客が乗り込んでくる。風景が観光地から日常生活の場に変わったような気がした。まだ私の旅は京都市内で続くが、初めての「海の京都」の旅はここ西舞鶴の心地よい日常のざわめきの中で終了となった。
車窓から若狭湾を臨む。やっと青い空が
鉄道とほぼ並行して走るのは安寿ロマン海道
由良川橋梁 ほんの一瞬のチャンスで撮影した一枚