周山街道で京北へ
京都滞在二日目。ホテル近くでレンタカーを借り、今日は京北から美山へ「森の京都」を旅する。
市街地を抜け福王寺交差点を左に入ると次第に道は登り始める。
神護寺への分岐も高山寺も素通りして、ひたすら山に分け入るような国道を往く。
かつては難所も多かったと聞いた国道162号線・周山街道は、峠を貫くいくつかのトンネルの整備によりほぼ快適に走行することができ、栗尾峠も開通して間もない長いトンネルで抜け、京北エリアにたどり着く。
桂川を超えて道の駅「ウッディー京北」で小休止したあと、162号線から右へ折れ、477号線へ。
道は緩やかにカーブしながら点在する集落を抜け、最初の目的地である常照皇寺へ。
道の駅「ウッディー京北」
常照皇寺
常照皇寺は、南北朝の動乱期、幾度もの地獄を見たという悲運の帝、光厳帝のお寺である。
一台の車が止まっているだけの広い駐車場に車を止め、ひっそりとした木立の中、長い階段の参道を登っていく。
勅額門の前の石段に腰を下ろした年配の男性が、足元で小犬を遊ばせている。
作務衣をお召しになったその風貌から「お寺の方ですか?」と伺ってみたが、いやいやいや...とにこやかに手を振りながら否定される。大阪から奥様と2人でお参りに来たが、境内はワンちゃんは入れないので交代で参拝するためにでこうして待っているのだとか。
しばらく立ち話の後で失礼して門をくぐると、拝観を終えておりてくる奥様とすれ違った。
拝観受付、というほどの大げさなところもなく、庫裏の奥に声をかけ、拝観の志納と御朱印帳を預けて靴を脱ぐ。
書院を抜けて方丈へ、方丈庭園を眺めながら渡り廊下を伝って開山堂へ。
阿弥陀さまやたくさんの羅漢さまに見下ろされながら進んだ内陣最奥には、光厳上皇像が安置されている。
本で読んだこの方の波乱の生涯に想いを馳せてみるが、木像の光厳帝は穏やかな表情をしていらっしゃった。
一通り堂内を巡ったあと、庭園に足を踏み入れる。
天然記念物の九重桜、御車返しの桜などの名木に、花咲く季節には大勢の観光客がマイカーや観光バスで押し寄せるそうだが、今は緑一色に包まれたような古寺には他に参拝者の姿はない。
シーズンが一段落したこの時期に傷んだ箇所の修復をしているらしく、方丈周辺は金属の高い足場が組まれて作業員たちが槌音を響かせていた。
背後の山にある山国御陵が庭の木立越しに屋根のあたりだけがわずかに見える。
山門の手前から右に上る坂道を辿ると近くまで行けるそうだが、今日はここで手を合わせてお参りさせていただいた。
長い石段の参道
ワンちゃんは拝観不可...
勅使門と五本定規筋の土塀
方丈内部 窓の向こうに方丈庭園
方丈庭園 補修工事の足場が...
開山堂の一番奥、光厳上皇木像
方丈
天然記念物 九重桜
府道61号線で井戸峠を越え周山街道をさらに北上
次の目的地は美山。
来た道の477号線を京北まで戻って周山街道を北上するのはだいぶ無駄があるので、常照皇寺駐車場を出てすぐ右折して井戸峠を越える府道61号線を行くことにする。
舗装はしてあるが狭く見通しの悪いカーブが続くので少しハラハラしたが、全く対向車とすれ違うことなく峠を越える。藤の花咲く峠近くで、山作業をする方だろうか、一人お弁当を食べて休憩していた。のどかな風景。
あとはほぼカーブもない走りやすい道で162号線との交差点へ。右折して更に北へ向かう。
林の中を抜ける道は深見トンネルを越え南丹市に入る。由良川を赤い鉄の橋で渡ると左側に観光協会の建物や道の駅「美山ふれあい広場」。その先丁字路を右折して由良川沿いを走る府道38号線に入る。
井戸峠を下りきったあたり
美山かやぶきの里
いくつかの集落を越えて行くと、緩やかなカーブを過ぎて視界が開けたところの左手に山を背にした農地が広がり、その奥に絵画のような茅葺き屋根の集落が見えてくる。右側は広い駐車場と休憩施設。
お昼もだいぶ過ぎていたので、まずは車を停めて駐車場の並びにある「お食事処きたむら」へ。ちょうど席が空いて案内され、美味しいお蕎麦をいただいた。
裏手を流れる由良川沿いを少し歩いてから、道路を渡ってかやぶきの里へ。
集落の入り口にある昔ながらの赤い円筒形のポストが、緑の山を背負った茅葺き屋根の風景の中で鮮やかなワンポイントになっている。
資料館やお店になっているところもあるが、殆どは普通の暮らしを営んでいる家々。失礼にならないよう写真を撮らせていただく。
この環境で火災は脅威だ。集落のいたるところに黒い焼杉で作られた小さな家型の放水銃が設置されている。年に2回行われる一斉放水は、もちろん防火のための訓練ではあるが、かやぶきの家々が水のカーテンに覆われる様を見ようとたくさんの観光客も訪れるそうだ。そのうちの1回を数日後に控えている。
今日は観光客の数も少なく、ゆっくり立ち止まって屋根を見上げたり道端に咲く花を眺めたり、静かに散策を楽しんだ。
集落を後に駐車場に戻りかけると、大型観光バスが3台、駐車場に入ってくるところだった。海外からのツアー客らしく、あっという間に静かな里は人にあふれる。休憩施設をのぞいてみたがとても買い物やトイレなど出来そうもない状況。しかし10分も走れば道の駅に戻れるので、そのまま美しい里を後にした。
右奥に茅葺き屋根の集落
集落の入り口には赤いポストとお地蔵様
独特の胸飾りや破風の家紋
美山民族資料館
いたるところに放水銃が設置されている
高山寺を拝観して帰還
来た道を戻り周山街道を京都市街地へむけての帰り道。
まだ帰るには少々早い時刻、拝観時間に間に合ったので高山寺に立ち寄らせていただく。
駐車場から傾斜のきつい石段を登って石水院拝観、さらに奥へ深い木立の中をぐるりと諸堂を拝しつつ登りに登って金堂へ。お参りをした後、薄暗くなってきた深い森の中で周りに誰の姿もないことに不意に不安になって、金堂からの急な石段を一気に駆け下りた。
また違う京都の表情に触れた「森の京都」の1日ドライブを終えて、車は無事に夕刻の賑わう市街地へ...
高山寺 石水院 善財童子