叡山ケーブル・ロープウェイで山頂へ
八瀬比叡山口駅 新型車両「ひえい」
出町柳駅から叡山電車の新型車両「ひえい」に乗って八瀬比叡山口駅へ。
そこからケーブル八瀬駅まで、高野川沿いの滴るような新緑の道を散策する。叡山電車では結構な人数が降りたが、この辺りには他に瑠璃光院など観光スポットもあるので、橋を渡るとケーブル駅方面に向かうのは私ひとりになった。
高低差日本一という叡山ケーブルカーは、ぐんぐん斜面を登ってゆき、木立の下に広がる市街地を遠く小さく臨みながら10分ほどで終点の駅に着く。駅舎を出ればすぐ先にロープウェイの駅。桜がまだ十分きれいに咲き、乗り継ぎのロープウェイが発車するまでの間に比叡山中腹からの眺めをほんの少し楽しむ余裕がある。
乗り込んだ時だけ少しゆらりと揺れたロープウェイも動き出せば快適で、むき出しの赤土の山肌を登る年季の入った車両はあっという間に比叡山頂駅に到着した。
叡山ケーブル
比叡山駅で乗り継ぎ
叡山ロープウェイ
ガーデンミュージアム比叡
比叡山頂の駅舎を出てほどなく右手にガーデンミュージアム比叡のローズゲートという入り口がある。入場料を払い小さなリーフレットをいただいて中に進むと、もしや貸切?と思うくらい人影がなく静まり返っている。
まだ眠っているローズガーデンから緩やかな坂を登ってゆくと、右手には遥か琵琶湖と滋賀から京都への街並みが眼下に見渡せる。晴天の下、わずかに霞んではいるが絶景だ。ここから反対側の駐車場やバス停のあるプロバンスゲートまで、花と陶板の絵画を楽しみながら緩やかな傾斜のガーデン内を下ってゆく。
冬季休業が開けてオープンして間もない園内は、整備されて植え込まれたばかりの植物が綺麗に咲いているが、山頂の遅い春はようやく始まったばかり。
展望台で一組、ランチに立ち寄ったカフェで二組の客と出会っただけで、やっぱり貸切のような広大なガーデンには庭のメンテナンスに精を出すスタッフの方が多い。
テーマごとの名を持つ庭の大きな池や花壇、そこに溶け込むように立てられたイーゼルに架かる陶板の名画たち。現実の風景と絵画の風景が一続きに広がっているような、あるいは目の前の花々の中に画中の人物がすくっと佇んでいるような、そんな演出も素敵だった。
バスの時間までかなりゆっくりできると思っていたが、景色に見とれ花々に足を停めしているうちに瞬く間に時間が過ぎてゆく。
今も充分に美しいが、もう少し季節が進み生育して、それぞれの植物が主張し合いながら伸びやかに領域を広げたくらいのこの庭にもぜひ訪れてみたいと思った。
最後まで印象派の絵画に見送られるように、駐車場側のプロバンスゲートへ。
静かな園内へ
琵琶湖の眺望
整然と花壇の並ぶ「花の庭」
初夏にはバラのアーチができる
「日傘をさす女性」が佇む
絵画と風景がひと続きに
睡蓮の池越しの展望塔
カラフルな「香りの庭」
比叡山ドライブウエイ
ガーデンミュージアム比叡ゲート前の広大な駐車場のはるか向こうに、定刻まで待機していたバスがゆっくりと動き出し、バス停に近づいて来る。比叡山内の諸堂をめぐるシャトルバスもあるが、これはドライブウェイを通って京都駅まで行く路線バス。これから向かうホテルはこの路線上にある。
バスは山頂を下り、一旦左に逸れて比叡山のバスセンターまで行き、再び戻るようにドライブウェイを下る。ちょうどその分かれ道となるあたりから少し入ったところには坂本ケーブルの延暦寺駅があり、私が来たルートとは反対側の大津市の坂本へ、日本一の距離を走るケーブルカーで降りることができる。
木立が途切れると左手に琵琶湖を遠望しながら、程なく星野リゾート・ロテルド比叡に到着する。
大津市坂本に降りるケーブルカーはこの先に
星野リゾート ロテルド比叡
今回の旅の記録をなかなかまとめる気になれなかったのは、このホテルに宿泊した後味の悪さだった。
それを良いと思うか否かは好みの問題なので、このホテル独自のコンセプトや接客、料理については特に語らない。
しかし、ホテルから自宅へ送った荷物が不着というアクシデント、それに対する稚拙で誠意のない言い訳。優秀なはずのスタッフが敢えてしどろもどろになって電話対応するのがトラブル対応の得策とでも教育されているのかと疑いたくなるほど、ただただがっかりした。怒りではない。失望。
最後がそんな具合では、楽しかった旅の思い出もすべて、なかなか思い返す気分になれなかった。
ネガティブな内容は書かない主義だったが、先へ進むために記録。
*
延暦寺朝のお勤め
翌朝。ホテルから延暦寺東塔へ向かうバスの窓から、琵琶湖の上に昇ったばかりの朝日が見える。今日も天気は良くなりそうだが、早朝の湖面は薄い靄に包まれて幻想的な光景。
駐車場から歩いて根本中堂へ向かうが、平成の大改修工事のためにぐるりと組まれた足場とシートで全貌は全く見えない。
案内いただいたのはご本尊と対面する中二階のような作りの場所。わずかに見える薄暗いご本尊の前におひとりのお坊さんがお座りになり、ほどなく読経が始まる。ああ、凛と通るいいお声だなあと思った途端、その声に大勢の僧侶たちの声が一斉に唱和し、見えない地下から湧き上がるように堂内を満たしてゆく。迫力、という言い方はふさわしくないかもしれないが、何か大きな力に包み込まれたような心地がして、思わずしゃんと背筋を伸ばして聴き入った。
比叡山内の宿泊者にだけ許されたこの朝のお勤め参加は、忘れがたい体験になった。
途中のドライブウエイから琵琶湖に昇った朝日
駐車場から根本中堂へ向かう
国宝・根本中堂は大改修中
石楠花が花盛り