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神光院から西賀茂の住宅地の間を緩やかに上った先に正伝寺の山門があり、その先は山に分け入るような参道が続く。周りをゴルフ場に取り囲まれているとはいえこの日はそんな気配すら感じず、しんとした杉木立の道を進む。
石の階段を上り詰めた先の庫裏で受付を済ませ、本堂へ。枯山水庭園の借景となる比叡山は、雲の低い灰色の空の下で淡くぼやけたように見える。
見上げれば血天井。養源院や源光庵などでも見たが、自然光を直に受けて浮かび上がる無数の掌形の血痕は、これまで見たどの寺のものより生々しい。
先客の二人連れが帰って一人だけになると、受付をしてくださった年配の方がアルバムや資料を持ってにこやかに出ていらっしゃった。写真や資料を見せていただきながら、鳥居元忠はじめこの寺にゆかりのある人物たちにまつわるお話をたくさんお聞かせいただく。私が障壁画に興味がある旨を告げると、先ほど縁越しに見せていただいた部屋の戸を全開にして招じ入れてくださり、今は同じ高さになっているものの上段の間として背後に武者隠しを控える座敷にも座らせてくださった。狩野山楽の描いた西湖の風景の襖絵を間近で鑑賞する。
京狩野の画のこと、豊臣家の家紋から三つ葉葵に替えられた建具のエピソードなど楽しい話はなかなか尽きず、帰りの新幹線の時間が近づいて名残惜しく思いつつもお暇することに。
桜の季節に、紅葉燃える季節に、雪の季節に、またぜひお越しくださいと見送ってくださった。
いつか機会を作って、またこの長い長い坂を登ってまいりましょう!
2015. 6.11